LIFE SHIFT

三十歳の原点~LIFE SHIFT~

社会人大学院生の日記。新たな働き方を模索中。

失敗しない進路選択などない

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同じ研究室のドクターの学生が、ポスドクとして大学に残るか就職するかについて、いよいよ方向性を決めなくてはと悩んでいた。彼は私が知る院生の中でも、とりわけ努力家で真面目で誠実なタイプ。学生はもとより教官からの信頼も厚く、このまま大学に残っても(希望どおりの大学かは別としても)食いっぱぐれることはないんじゃないかと思う数少ない学生のうちの一人である。

彼は2つの切実な理由から、就職の方に気持ちが傾いているようだった。一つは、このままでは生活が不安定で食べていけないということ。もう一つは、自分の研究が社会の役に立っているという実感が持てないということ。

社会人学生として大学にいると、こういった進路相談のような悩みを打ち明けられることが割とある。それはとても光栄なことで、役に立てるなら可能な限り尽力したいと思うのだけれど、実際のところアドバイスと言えるようなことは何もできず、ただふんふんと傾聴するばかりである。結局、私に語れるのは自分の経験だけであって、それだって目下努力中で道半ばに過ぎないし、それが他人の悩みの根源とうまくフィットしているのか今いち実感できないことがある。

とはいえ2つ目の理由については、彼の気持ちがよくわかった。かつて私が、博士課程に進まずに就職を選んだ理由の一つだったから。研究を机上の空論にしたくない、社会からの要請に応えて行うのが研究だ、求められて行う仕事がしたい、と思っていた。それと同時に、大学の先生たちの多くは、とても世間知らずで偏っているように見えた。大学の研究が公的機関の政策運営にどう生かされているのか、現場を知らなければいけないと思った。

「社会の役に立ちたい」という動機は、仕事を選ぶ本質的な理由にはならない

就職面接のとき、「社会貢献できる仕事だから」「社会の役に立ちたいから」という耳障りの良い言葉で志望動機を語ることがある。でもこれは、何も言っていないのと同じことだ。誰かの役に立つ仕事を選ぶことは、そんなに難しいことではない。どんな仕事も、基本的にそれを必要とする人がいるから存在していて、誰かの役には立っている。

私自身もかつては、自分の満足よりも、広く社会に貢献することの方が大事で、それを評価してもらえるような仕事をしたいと思っていた。研究上の理由もあったけれど、それよりもっと漠然とした強い思い込みによって、公の仕事はまさにそれを叶えるものだと思っていた。念願かなってそんな仕事を得て気づいたことは、誰かの役に立っていても、自分自身がそのことに満足できなきゃ意味がない、ということだった。大事なのは、どれだけその仕事にハマって、打ち込めるかということ。自分の「これがやりたい」という強い思いが先にあって、仮にそれが他人から「なんの役に立つの?」と言われることであっても、夢中で続けられるかどうかが重要だと今は痛切に思う。それを続けることで、次第にそれが「社会のため」になっていく。その先どれだけのことができるかは、仕事に傾ける熱量の大きさに依存する。そしてその熱量は「自分が納得できる仕事をしている」という満足感と比例している。

仕事を選ぶとき「社会の役に立ちそうだ」という理由で就職先を選んだり、志望動機を聞かれて「社会貢献」が先に来る人は、もっとよく自分自身と向き合ってみるべきだ。自分はどんなことに夢中になれるのか、どんな環境だと力を発揮できるのか、反対にどんなことが苦手なのか、etc。組織の中で仕事が割り振られて、取引相手から仕事を依頼されたり顧客と直接やりとりしたりすることで、自分は求められている・必要とされる仕事をしている実感が湧くだろうという程度の考えなら、あまりに浅はかだ。その仕事は、もちろん相手から必要とされている仕事に間違いないけれど、そのことと自分のやりがいとは別のものだ。

人生に複数の選択肢を常に持っておくこと

いま研究に行き詰まっているなら、就職してみるのもいい。机上で考えているだけでは学べないことが大学の外にはたくさんある。ホントにやりたいことが見つからないから働きながら考えたい、というのも一つの動機だ。それなら、自分が夢中になれそうな仕事をいろいろ経験してみるのもいい。

大事なことは、常に人生に複数の選択肢を持っておくことだと思う。失敗しない進路選択などないし、生きていれば進路変更を余儀なくされる場面が必ずある。これからの時代、一つの仕事だけを生涯続けていける時代ではないと思っている。できたとしても、それは自分を一つの場所や仕事に縛り付けて、結果として自分を苦しめる選択になってしまう可能性がある。

ちきりんさんはこう言っている。

・20代から10年程度は、とりあえず働きながらあれこれ体験し、

・30代を通して自分のやりたいことを見極め、複数の将来シナリオを考えながら、

・40代になったら自分オリジナルの働き方に移行しよう

(出所:http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20130820

 

冒頭の彼には、どんな道に進むにせよ、人生の選択肢の一つとしてアカデミックな世界との接点を持ち続けてほしいと願っている。数年間にわたって一生懸命続けてきた研究は、少なからず彼自身の「夢中になれること」の一つに違いないと思うから。

言うまでもないが、就職はスタートラインに過ぎない。現状維持では後退するばかりである、とは誰かの言葉だけれど、立ち止まらず変化を恐れず、あらゆる可能性を模索し続ける努力が必要だと、自戒を込めて思う。

 

※冒頭画像:https://unsplash.com/photos/Yj1M5riCKk4