「好き」を思い出す旅
中欧旅行の真っ最中だ。
昨秋はじめて海外一人旅でロンドンを訪れたときより、ずいぶんリラックスして日々を過ごしている。思えばあの時は、警戒心むき出しでガチガチに緊張していた。だからこそ無事旅を終えたときに大きな自信になったのだが、ある種のおのぼりさん的な浮ついた精神状態だったことも否めない。今回はどこか日常の一部として日々の出来事を受け止めながら、国内旅行の延長という雰囲気で過ごしている。
今日はチェコからポーランドに向けて国境を越えた。列車移動の最中、ひとり旅だと話し相手もいないので、車窓を見ながらいろんなことを考えてしまう。
改めて、自分は旅が好きだと思う。それはたぶん、変化が好きだからだ。住む場所が変わったり、出会う人が変わったり、食べ物や習慣の変化も含めて、自分の常識と違うことを心から楽しんでいる。旅は、たとえ誰に止められたとしても一生続けたいと思える本当に好きなことだ。それ以外にも、この旅を通して自分の「好き」をいろいろと思い出した。大好きだったのにいつの間にか離れてしまったこと、やりたいと思いながら忙しいのを言い訳にやらずにきたこと、あれもこれも頭に浮かんでくる。
ぱさぱさに乾いてゆく心を
ひとのせいにはするな
みずから水やりを怠っておいて
気難しくなってきたのを
友人のせいにはするな
しなやかさを失ったのはどちらなのか
苛立つのを
近親のせいにするな
なにもかも下手だったのはわたくし
初心消えかかるのを
暮らしのせいにはするな
そもそもがひよわな志にすぎなかった
駄目なことの一切を
時代のせいにはするな
わずかに光る尊厳の放棄
自分の感受性くらい
自分で守れ
ばかものよ
(出典:茨木のり子『自分の感受性くらい』)
この世界には、私の知らないもっとおもしろいことがたくさんある。朝起きたときに、毎日ワクワクしてベッドから出たい。好きなことをして生きていくために、これからどう人生をアレンジしていけばいいのか、旅の間ずっと考えている。